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Minato Unesco Association

地域が育てる自然保護区 -ユネスコエコパーク-

2021年度 港ユネスコ協会 40周年記念シンポジウム

地域が育てる自然保護区 -ユネスコエコパーク-

共催:港区教育委員会 後援:公益社団法人日本ユネスコ協会連盟、東京都ユネスコ連絡協議会

日時:2021年11月19日(金)18:30~20:30
会場:国際文化会館 講堂

                                  パネリスト:礒田博子氏
                                        筑波大学生命環境系/地中海・北アフリカ研究センター教授

                                  パネリスト:酒井暁子氏
                                        横浜国立大学大学院環境情報研究院教授

                                  パネリスト:ママードウァ・アイーダAida Mammadova)氏
                                        金沢大学国際機構 准教授

                                  総合コメンテーター:松田裕之氏
                                        横浜国立大学教授

 今回のシンポジウムは、1981年10月17日に発足した港ユネスコ協会の40周年を記念するイベントであった。今回は、会場参加とオンライン参加のハイブリッド形式で開催された。3名のパネリスト、礒田博子氏、酒井暁子氏、およびママードウァ・アイーダ(Aida Mammadova)氏からご講話を頂き、その後、総合コメンテーターとして松田裕之氏に総括をお願いした。以下はシンポジウムの要約である。

 なお、今回のシンポジウムの模様について、YouTube配信もしていますので、ぜひご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=wLyI1LlAHHs

 まずは、コーディネーターの永野博氏(港ユネスコ協会会長)による挨拶で開会した。
 港ユネスコ協会では毎年一回、「平和を考える」シリーズとしてシンポジウムを開催してきた。第1回は「気候変動」、第2回「国連 海洋科学の10年」、そして第3回の今年は、日本がユネスコに加盟して70周年、MAB計画50周年になるのを記念して、「ユネスコエコパーク」を取り上げる。

 続いて、2年に一度のユネスコ総会に出席するためパリに滞在中の田口康氏(文部科学省国際統括官、日本ユネスコ国内委員会事務総長)がユネスコ本部の第一会議室からリモートで挨拶、続いて岡本彩氏(文部科学省国際統括官付、日本ユネスコ国内委員会事務局)が会場にて以下の挨拶をされた。
 国連海洋科学の10年も始まり、いろいろな節目の年。ユネスコ総会では11月3日をユネスコエコパーク国際デーにすると決定した。都市部の住民の方々もエコパークや生態系の恩恵を受けていることを念頭に置いて頂きたい。

パネリスト 礒田博子氏
(筑波大学からZoomを利用して参加)
 ユネスコのMAB(Man and the Biosphere人間と生物圏)計画とは、自然の恵みを守り、合理的かつ持続可能に利用するためのプログラムである。MAB計画の中でも、生物圏保存地域(Biosphere Reserves、略称BR、日本での通称「ユネスコエコパーク」)が主要な活動である。

磯田博子 氏

 世界の131か国が加盟、日本では10か所が登録されている。白山、大台ケ原・大峯山・大杉谷、志賀高原、屋久島・口永良部島、綾、南アルプス、只見、祖母・傾・大崩、みなかみ、甲武信である。これらの地域は厳正な審査基準で選ばれており、(1)核心地域(2)緩衝地域(3)移行地域のゾーニングがなされている。最近の動きとして、MAB戦略(2015~2025年)が定められ、その効果的実施のための具体的な行動計画としてリマ行動計画(2016~2025)が採択された。
  私は生物資源を対象とした機能性研究にも携わっており、生物多様性の評価、基礎研究への貢献、新産業創出を通じてSDGs目標9「産業と技術革新の基盤を作ろう」と、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」につなげたいと考える。

パネリスト 酒井暁子氏
 人為的影響によって自然環境の劣化が世界規模で進行しており、現代は第六の大量絶滅時代と言われる。人間とその社会は自然環境に完全に依存しているので、生態系を大切にしなくてはいけない。豊かな生物多様性が見られる平野や里山を守るにはどうしたら良いか?自然を守る2つのアプローチが考えられる。一つは保護、今一つは自然を「使いながら・使うことで」守っていくという発想で、大きな変革が求められ、特に難しい。これを考える一つの枠組みが「ユネスコエコパーク」になろうかと考える。

 ユネスコ本部から、参考になる地域としてドイツのレーン地方を紹介された。発展から取り残された分、絶滅危惧種の宝庫になっている。豊かな風景や生物相が残り、それをエコパークの枠組みの中で再評価し、地域振興に繋げよう、それが人と自然の双方に利益をもたらす、というコンセプトで運営されている。

ネットワークの重要性は最初から認識されており、協力を行うための貴重な場を提供している。日本は東アジアネットワークの一員で、集っているメンバーは、中国、韓国、北朝鮮、ロシア、インドネシア、ベトナムの代表。この光景を見たとき、世界の希望がここにあると思って感激した。

パネリスト ママードウァ・アイーダAida Mammadova)
(金沢大学からZoomを利用して参加)

 私はアゼルバイジャン人、旧ソ連から30年前に独立した国で、日本から8,000km程離れている。ユネスコエコパーク(BR)には2015年から関わってきた。2017年ユースフォーラムに参加、2019年若手科学者賞を受賞した。白山BRは1980年、日本で最初にBRに指定された。日本BRの課題は多い。例えば、後継者や若い世代の不在、雇用の減少、過疎化と高齢化など。BRとGP(ジオパーク)はSDGsの目標を達成出来るのか?
 これらを念頭に置いて、金沢大学で「ユネスコエコ・ジオパーク」教育を始めた。2015年度に始動した本プログラムは、これまで世界からのべ350名、20か国以上の参加実績を持つ、外国人留学生に人気のプログラムとなっている。

 金沢大学はロシアの6つの大学と連携し、付近の5つのエコパークに日本人学生100人を派遣して地元住民と交流した。2年前からオンラインで、3か所のBRとの国内連携を開始、日本大学間MABネットワークを立ち上げた。国際ネットワークとしては、中央アジア4か国やヨーロッパ3国と連携し、続いて東南アジアにも研修コースを広げ、ASEAN大学ネットワークが出来た。

 何故こんな活動をするか?日本の集落には若者がいない。ネットワークを広げて若い人たちを巻き込み、エコパークだけでなく他のユネスコ活動にも貢献できる若者を育てたい。

総合コメンテーター 松田裕之氏

東京都市圏は、みなかみBRと甲武信BRの水源に依存している。利根川と多摩川である。ちなみに、横浜の水源は相模川。世界遺産は価値を保存する概念。それに対してオープンな場で価値を創造するのがMAB計画である。もう一つの特徴は、世界遺産は加盟国政府が守るのに対し、ユネスコエコパークは地元の人や自治体がどう取り組むかを見ている。「人と自然の共生」と日本ではよく言うが、この考え方とMAB計画とはよく合っていると思う。このコロナ禍において、「野生の動物と接触するから感染症が流行った」という動きがあるが、野生動物と人間が棲み分ければ解決する問題ではない。野生動物と人間はお互いに「怖い」と思っているからこそ共存出来る。この点をご理解頂きたい。

(国際学術文化委員会担当 常任理事 宮下ゆかり)