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Minato Unesco Association

緊迫する東アジア情勢を語る

2017年度第1回国際理解講演会
「緊迫する東アジア情勢を語る」

講師:東郷和彦氏
日時:2017年10月16日18:30~20:30
会場:港区立生涯学習センター305号室

今回は元駐オランダ大使、京都産業大学教授・世界問題研究所所長、静岡県対外関係補佐官の東郷和彦様(当協会理事)を講師に迎えてご講演頂きました。外交官としてのご経験を踏まえた東郷元大使のご講話は興味深い内容で、いつも大好評です。今回は、トランプ政権が誕生したアメリカ、関係が悪化している北朝鮮、世界の中における中国、ロシアについてご講演いただきました。

1.先ず、各国をみていく中でポイントとなる歴史について時系列に概観されました。
1945年~1989年、中ソ対立から米ソ対立へ変化して冷戦時代は、米ソ核均衡が保たれていました。冷戦終了後はアメリカの一人勝ちの時代を迎えました。しかし、2008年以降、世界は自国第一の時代に入ってきました。ポピュリズム、ナショナリズムを背景に世界政治の骨格が軋み、全体の秩序がみえない状況に進んでいきました。
2008年、アメリカは、リーマンショックを迎えて、アメリカの経済が必ずしも強いわけではない時代を迎えました。
2008年中国も、今までの「力を蓄える対応」から「自国を主張する方向」へ転換とみられています。
2012年ロシアでは、プーチン大統領の再登場、日本でも安倍総理大臣の再登場と双方の国の代表の再登場が発生しました。
2014年「アラブの春」現象のあと、イスラムのISISの発生からシリアとイラクの不安定な状況へと続いていきます。
2016年イギリスのEU離脱の国民投票
2017年アメリカは、トランプ大統領の登場を迎えます。

2.安倍総理大臣は、2012年の再登場の後、外交問題について「これはやらねばならない」という政治的な信念と、「大きな耳」をもって人の話をよく聞き、総理としての判断は柔軟性をもってするという組み合わせをやってきました。それから解決すべき課題が非常に難しいので、いっぺんにそれを片付けるのではなく、一つ一つ順番に解決する戦略性をもっていました。
その結果、尖閣問題で激震が走っている中国とは「抑止と対話」を整え、米国との関係で重大な不均衡を生じていた安保関係では憲法9条の解釈改正を行い、歴史認識問題では2015年8月の安倍談話で村山談話を継続させ、これをうけて15年12月には韓国との慰安婦問題を解決させ、2016年12月にはプーチン大統領を山口に迎えて平和条約交渉に新たな道筋をつけるなど「積極的平和主義」の課題の下、5年間、外交・防衛・安全保障における成果を徐々にあげてきました。
しかし、2017年の春に入り、内政上の困難から一時政権は危機状況に陥りましたが、10月の選挙で大勝し、今、北朝鮮・ロシア・中国という三つの課題に取り組んでいます。どの問題にも、アメリカの影が大きくさしているわけです。

3.北朝鮮ですが、現在、トランプ大統領と金正恩との関係が厳しい状況にありますが、根本的なこととして外交においては全ての外交手段を使うべきであることから、今後も両国間の外交努力を期待したいと思います。
北朝鮮については、戦後、韓国より経済状況は良かったです。それは日本が引き揚げた時、残した工業を金日成が引継ぎ、産業が残った形となったからです。韓国には農村が残りました。そこで1951年、金日成は南に進出しようと戦争に踏み切りましたが、最後は度線に戻り、停戦合意に至りました。
1953年、スターリンが逝去し、金日成は中国およびソ連と条約を結びました。
1994年、金日成の逝去後、金正日は3年間の服喪を経て、後を引き継ぎました。金正日政権下の事件として、韓国大統領を襲ったラングーン・テロ事件、イラクにおける飛行機襲撃事件を挙げることができます。金正日の後、金正恩が政権を引継ぎ、先軍政治を3代で固めました。金正恩は、北朝鮮の金王朝を守る為、核兵器を選択しました。
北朝鮮と台湾を比較すると、2代目の対応に相違があります。台湾についても振返ってみました。1949年、台湾に100万人の中国人と共に蒋介石がやってきて戒厳令が敷かれました。しかし、蒋介石の息子の蒋経国は、自分の政権の最後に、次の2点を実施しました。
「戒厳令解除」と「国民党とは異なる党の設立許可」です。なんとそれは、独立を目的とした「民主進歩党」のを発足でした。蒋経国の後、李登輝が代表となり、民主化とその結果としての台湾化を進めました。
外交の鉄則は、相手のことを知っていること。相手のことを知るということは、歴史的発展を知ることと人とのネットワークが大切だと思います。

4.ロシアは2017年になってからの動きが遅くなったことが気になります。国際情勢も、両国の経済協力も難しい情勢下にあるので、両首脳がよほどの指導力を発揮して部下の官僚群を動かしていかないと失速する危険もあるでしょう。

5.2017年、中国では習近平の権力掌握が進み、「一帯一路」のユーラシア新共同体が進められています。「一帯一路」はユーラシアの新たな共同体を目指すもので、政治・軍事・経済を含むものです。これから始まる第回の中国共産党大会で、習近平がどのくらいの新しい政策を打ち出すかが大きな注目点です。

以上の講演から、現在、世界を取り巻く厳しい状況を理解することができました。我々の普段の生活の中で危機意識を持つことは少ないですが、幅広い視野で現状を捉えることが大切だと思いました。今回ご参加された皆様は、次回の東郷講師による講演を心待ちにされていることと思います。ご参加が叶わなかった方も次回の講演へぜひお越し下さい。
最後に東郷講師のご著書を紹介させていただきます。東郷和彦他編著『日本発の「世界」思想哲学・公共・外交』(2017年藤原書店)