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Minato Unesco Association

戦後70年 歴史和解への道

2015 年度第一回 国際理解講演会


日時:2015 年 6 月 26 日(金) 午後 6 時 30 分~8 時 30 分
会場:港区立生涯学習センター3 階 305 号室

戦後70年歴史和解への道


講師:松尾 文夫(まつお ふみお) 氏

ジャーナリスト
講師プロフィール
1933年東京都生まれ。学習院大学卒業。
共同通信入社後、ニューヨーク、ワシントン特派員、バンコク支局長、ワシントン支局長、論説委員、共同通信マーケッツ社長などを歴任。
2002年、ジャーナリストに現役復帰。
著書:「銃を持つ民主主義―アメリカという国のなりたち」(小学館文庫、第52回日本エッセイストクラブ賞受賞)、
  :「オバマ大統領が広島に献花する日―相互献花外交が歴史和解の道をひらく」(小学館新書)他、多数

最初に、松本洋港ユネスコ副会長が講師の略歴紹介を行った。
副会長か、とりわけ強調されたのは、80歳と超えて未だに生涯現役新聞記者を続けている松尾文夫が、1971年に米中和解を予測した事実である。日本中があっと驚いたあのニクソン米大統領の訪中と毛沢東との握手を、なぜ松尾氏が予測出来たのか?聴衆の興味が高まった。

講演内容
(1) 日米同盟
* 日本は米国というものをきちんと学んでいないのではないか? 明治維新において日本がモデルと仰いだのは主として欧州の国々であった。野球の導入は早かったものの(1903 年には早慶戦)、米国についての正式の講座が東大で始まったのは 1923年である。
信じられないことに、日本は米国に石油の80%を依存しながら戦争を始めた。建国時から銃を持って戦った米国というものを理解せず、米国は「烏合の衆」であるから一撃を与えれば日本の言い分が通るとした。
現在、日米は同盟国とはいえ、お互いの理解にはまだ問題がある。
歴史和解の儀式もいまだに出来ていない。私は1995年2月14日、「ドレスデンの和解」のニュースに接して大きなショックを受けた。ドレスデンとは、米英旧連合軍によって夜間無差別焼夷弾爆撃を受けた都市である。
ここで爆撃50周年の手厚い鎮魂の儀式が行われ、イギリス、アメリカの制服組トップと大使が友人として出席する中、ドイツ大統領が「和解」を宣言する格調高い演説を行った。
私は2005年以降、「ドレスデンの和解」日本版を提案している。相互献花による信頼醸成外交の提案である。

* 日本はあの戦争責任を自ら裁いていない。ドイツにはナチス犯罪追及のシステムがあり、今でも追及の手を止めていない。日本でも日本人の手による戦争責任を追及する動きがなかった訳ではない。東久邇内閣および幣原内閣時代に自主裁判開始の動きがあったが、マッカーサー将軍率いる総司令部の反対によって日の目を見なかった。
* 米国の Occupation Forces は、日本で「進駐軍」と呼ばれた。米国の知日派の人々にこの話をすると、かなり日本語の達者な方でも「知らなかった」という反応が返ってくる。私の恩師である松本重治氏(元港ユネスコ協会顧問)が「占領軍」と呼ぶべきだとの記事を書いたら、総司令部の検閲でカットされたと聞く。

(2) 中国、韓国との関係
* 安倍首相の今回の訪米は上下院合同会議において英語で演説し、外交努力の跡を見せたが、「歴史問題」は積み残した。
米国の建国の発端は税金問題、つまり反税闘争だった。米国は多民族国家である。住民の人種構成を見ると、1番多いのは白人であり、次いでヒスパニック、黒人、そしてアジア・太平洋系と続く。日本もこの中に入るアジア系市民は、10年前に比べると、急激に増加している。とりわけ中国系、韓国系は成功者が多く、政治に活発に参加している。従軍慰安婦の像建立は韓国系市民による活動の一つの例である。
* 私は小学6年生の時(1945年7月19日夜)、福井市において B29 の爆撃を体験した。
クラスター爆弾の親爆弾が欠陥製品で爆発しなかったお蔭で命拾いした。広島、長崎を含め、全国で命を落とした民間人は51万人と言われる。
2015年5月、核拡散防止条約(NPT)会議がニューヨークで開かれ、岸田外相が「広島・長崎訪問」を提案したが、中国大使は明確に反対を表明した。NPT 会議は最終文書を出すことが出来ずに終わった。
「明治日本の産業革命遺産」について、韓国が反発している。日本は1854年、黒船来航により開国し、米国との付き合いが始まった。しかし、中国は1784年に米国と貿易を開始、日米より長い関係を築いていた。例えば幕末の日本に影響を与えた「海国図志」は、中国からの輸入だった。
中国、韓国との関係を考えるとき、もし私が中国に生まれていたら、韓国に生まれていたら、という見方をしてみてはどうか。

(3) 安倍外交のチャンス
* 2015年6月23日付朝日新聞朝刊にアマコスト元米国大使のインタビュー記事が掲載された。「嘉手納の米国空軍の存在は重要だが、辺野古への基地移行計画には疑問が残る」と述べている。米国内にこのような意見があることに注目したい。
* 沖縄の「万国津梁の精神」を生かす道を探りたい。「船を万国の架け橋として貿易を行う」という意味である。
沖縄は武装しない国として貿易で栄えた。黒船に乗って来航したペリーの碑が沖縄にあり、「アメリカと沖縄は永遠の友人である」と刻まれている。

質疑応答

Q1:「日本はサンフランシスコ条約等を通じて謝罪と補償を実行したが、ドイツは国として謝罪していない」と主張している人がいるが。
A:その意見については承知していないが、ドイツは国として補償したと考える。例えば日本では、東京大空襲で死亡・負傷した民間人・遺族に補償していない。ドイツでは申し出があれば怪我に対しても補償してきている。
ゲルニカでは、大統領のサイン入りの謝罪文を見た。サンフランシスコ条約には中国、韓国は参加せず、冷戦構造の中で結ばれた条約として再解釈を求める学者もいる。

Q2:日本人は自らを裁けるのか?裁くつもりはあるのか?
A:実際にそういう動きがあった。基本的に、裁くことは可能だと考える。

Q3:今の政治状況を見ていると不安に駆られるが。
A:ご質問への回答に代えて、ご紹介したい記事がある。6月13日の読売新聞に、中曽根氏のインタビュー記事が出ている。参照して頂きたい。
ちなみに、日米安保条約や米軍の沖縄駐留は、中国も韓国も、北朝鮮も受け入れている。日本の軍国主義化防止に役立つと考えるからだ。最大のアイロニーではないか。

Q4:天皇・皇后両陛下が戦争犠牲者の慰霊の旅をなさっている。心が休まる。
A:同意見です。

Q5:軍国主義の復活を懸念するという話が出た。日本の外側から見る日本人の形質とは?
A:日本発のニュースの重要性は減っており、発信も少ない。米国にいると、日々のニュースは China、Chinaである。しかし日本の Revisionist に対する懸念はあると感じる。とりわけ若い人には、ネットだけでなく新聞も読んで、事実関係を勉強して欲しい。

追記
この講演会は港区の動画配信事業の対象となった。当日は広報担当チームが来場してビデオ撮影を行った。
動画は、港区のホームページ・「生涯学習講座」をご覧ください。