日本語 English
Minato Unesco Association

2020年度第2回国際理解講演会「イタリアの建築文化」

講演者:倉林公夫氏 FS総合研究所代表、元国土交通省土地・水資源局長

日時:2020年3月5日(金)18時30分~20時   
会場:国際文化会館(ZOOM併用)     
                                主催:港ユネスコ協会、共催:港区教育委員会

講演

1. ゲーテ~イタリア紀行

ゲーテはドイツの文豪。建築にも詳しく「イタリア紀行」を書いた恋多き人。ワイマールで行政官として手腕を発揮するも領主に黙って突然イタリアへ。ゲーテは、恋や仕事の束縛から逃げる究極の「自由人」。イタリアの芸術や建築に触れ新古典主義へ変わっていく。ゲーテのようにイタリアの建築をめぐる「知の旅」を。

2. ヴェローナ 

円形競技場アレーナがある。ローマのコロッセオと同じ時代だが16世紀から修復作業が行われ保存状態がよく現在もコンサートが。

3. ヴィチェンツァ

ルネサンスの建築家パラーディオの出た街。街全体がパラーディオ作品の展示会場のよう。回廊が特長で柱は古代ローマ、ギリシャ風。中世の城を古代ローマの劇場のように改修した「テアトロオリンピコ」がある。

4. 修複保存の大変さ

パラーディオの作品を保存することは大変なこと。京町家の改修に関与したが新築よりも費用が掛かった。京町家は昭和25年の建築基準法以降は新築ができない。改修でしか生き残れない。今の木造在来工法は柱と壁で外圧に耐えるが、京町家はいわば免震。自然の力に頑張って対抗するのではなく「変形しながら受け流す」。現在2万軒くらい残っているが、改修に費用が掛かるためどんどんなくなっている。京都でも冷泉家の改修などには補助金が出るが普通の町家には出ない。ヴィチェンツァでも同じだが自力で直して保ち続けていることに意識の高さを感じる。

5. 創作と模倣

ヴィチェンツァでゲーテは「創作と模倣のどちらが美術の中で効果をもたらしたか」というお題の討論会に出会う。私はこのテーマに興味がある。今はあまりにもオリジナルを芸術家に迫り過ぎている。少しでも似たものがあると叩く。それでは芸術は進歩しない。偉大なものへの憧れ(オマージュ)が偉大な作品を作る。まさにルネサンスがそうだ。

ヴェネツィアの古い税関跡を美術館に改修するコンペで安藤忠雄が選ばれ、「東洋人に?」と賛否両論あったが、結果はすばらしいもの。古い素材を生かし、コンクリートの磨いた壁は高級感がある。竹を編んだような鉄の扉があり、まさに和風と感激。サンマルコ広場に行き(安藤が尊敬する)スカルパの有名なオリベッティの店の内装を見ると同じような鉄の扉があった。ヴェローナにはスカルパの中世の城を美術館に改修した素晴らしい建築、カステルヴェッキオがある。ここにも竹で編んだような扉が。模倣?いや、オマージュが芸術を高めていくのだ。

6. 天才の誕生

京都の庭で、後水尾天皇による修学院離宮のほかにもう一つ好きな庭があった。平安神宮の庭。でも口に出せなかった。これを造ったのは一介の植木屋だったからだ。明治の元勲、山縣有朋の別邸「無鄰菴」が京都にある。山縣は「西洋の庭園も枯山水も素晴らしいが日本には美しい野山や田園風景がある。そんな庭を」と考えた。山縣には作庭の技術はなく植木屋の小川治兵衛が呼ばれた。身分の差を超え怒鳴りあいの末できたのが無鄰菴の庭。植木屋治兵衛(植治)の天才は開花。明治の庭のほとんどが植治の作。彼には作庭の技術はあったが思想はなかった。それが山縣の「知」と結びつくことで素晴らしいものが生まれた。東京の旧古川庭園、この国際文化会館の庭も植治の作。
パラーディオもただの石工。人文学者で貴族のトリッシノが才能を認め、彼にラテン語、音楽、絵画などを教えローマにも連れて行く。技術なき知性も空しいが、知性なき技術もつまらないものしか出来ない。知性と技術のスパークが天才を生む。

7. 色彩

ヴェネツィアのブラーノ島は建物の外壁がカラフルで美しい。この島も水路を船で行くが霧でどこが自分の家か見えにくいので建物に色を付けた。ブラーノ島の鐘楼は斜めになっている。ヴェネツィア本島のサンマルコ寺院の向かいの鐘楼にゲーテも登っているが1902年に倒れた(後に再建)。石造りでも倒れる時は倒れる。

8. 後世へつなぐ人

パラーディオは一世を風靡したがだんだん忘れられていく。英の建築家イニゴ・ジョーンズらがパラーディオを発見して本にする。ゲーテもそれを読んでヴィチェンツァに来た。バッハも同じで、メンデルスゾーンが発掘し積極的に演奏することでバッハの素晴らしさが全ての人に伝わった。日本の歴史書や古典文学は、江戸時代に盲目の塙保己一が大名や公家に按摩の礼に死蔵されていた本を読んでもらい発掘し編集・出版した。ヘレンケラーは来日の際「母から繰り返し聞かされた塙保己一先生の日本に来たかったのです」と語った。これらの人は創作者ではないが天才を後世に繋いでいく重要な人たち。

9. ローマ

今のパンテオンはハドリアヌス帝(在位117~138)が改修。破壊されず奇跡的に当時の姿を残す。サンタンジェロ城もハドリアヌス帝が霊廊として建築。プッチーニの「トスカ」の舞台。サンピエトロ寺院とは700m程離れているが繋がっていてダビンチコード第3作「天使と悪魔」ではそこを主人公が走って逃げる。
イグナシオ教会はイエズス会の本山。プロテスタントに対しカトリック内でも改革が行われイグナシオやサンフランシスコ・ザビエルらがドイツや新大陸、アジアなど世界各地に布教活動を展開した。教会の天井は半球型でなく絵。だまし絵である。

10. シチリア

パレルモのマッシモ劇場は1897年完成。ゲーテは見てないが、規模が世界第3位の劇場。映画ゴッドファーザーpart3で有名に。凄惨なラストシーンの場面にシチリアを題材にしたオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲が静かに流れる。

11. フィレンツェ

イタリア紀行には書かれていないがフィレンツェには「冷静と情熱」の舞台にもなった大聖堂、オペラ「ジャンニスキッキ」で娘から結婚を認めないならここから身を投げると言われるベッキオ橋、「ヴィーナスの誕生」などの名画があるウィフィツィ美術館がある。

12. ミラノ

ミラノは仏墺にかわるがわる支配され、ある意味外国人の才能に寛容な国際都市。万博跡地には磯崎新やザッハの素晴らしいデザインのビルが建つ。仏独が中心のゴシックの最高傑作がイタリア(ミラノ大聖堂)にあるのも納得。大戦で破壊しつくされたミラノの街に天才・ジオポンティが美しいビルを作った。最近では植物に覆われたマンションが評判。

(国際学術文化委員会 山田祐子)