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Minato Unesco Association

イタリアオペラの風を感じて

2023年度 第3回国際理解講演会
「イタリアオペラの風を感じて」
~現役オペラ歌手とピアニストによるレクチャーコンサート~

渡辺 大 氏 オペラ・テノール歌手
久保田 翠 氏 ピアニスト
日時:2023年10月29日(日)14:00~16:00
会場:港区立男女平等参画センター リーブラホール

【第一部 イタリアオペラの潮流と声楽技法】

・はじめにオペラとは
 オペラ=歌劇です。演劇のセリフを歌にした音楽劇で総合舞台芸術です。16世紀末にイタリアの
 フィレンツェでギリシァ劇の復興をしようとする動きが始まりました。すり鉢状の屋根のないギリ
 シャ劇場で行われ、音響が届くように計算し設計されていました。時代によって楽器や演奏スタイ
 ルが変化していきました。

・オペラの作り方
 オペラにはまず題材となる原作があり、演劇のセリフを歌にしたすべての叡智を集めた総合芸術で
 す。台本作家が台本を書き、作曲家が音楽を作る役割分担で出来ます。
 例えば「アイーダ」の場合は考古学者のマリエットが原案を作成、カミーユ・デュ・ロクルが原台
 本(フランス語)を作成、ヴェルディが台本作家ギスランツォーニに指示をしながらイタリア語韻
 文による台本を作成、ヴェルディが作曲しました。

・オペラの担い手たち
 指揮者・オーケストラ・歌手・ダンサーがおり、演出家・演出助手・プロンプターがいます。舞台
 では照明・衣装・美術のそれぞれの担当、大道具・小道具係がおり、制作進行・舞台監督・スタッ
 フ・メイク床山などの役割があり、これら全員でオペラを作り上げていきます。

・バロック時代
 テノール歌手のいない時代、去勢された歌手が高音を出す超絶技巧のカストラートが活躍。独唱の
 前で話を進めるレチタティーヴォと言われる台詞のような音楽も使われるようになりました。

♬ヘンデル「リナルド」より《私を泣かせてください》1711年

・モーツァルトの時代
 アンサンブルオペラが盛んな時期、また王様の為のお金のかかるオペラ・セリアからオペラ・ブッ
 ファという喜劇が登場し、民衆の為のオペラと言われました。さらに、脚本を書く天才台本作家ダ
 ・ポンテも現れて、魅力的な人間ドラマも生まれてきました。

♬モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」より《愛のそよ風は》1790年

・超絶技巧のベルカント時代
 カストラートから脱出してテノールができる時代になりました。それは声楽技術がどんどん発展し
 て高い音が出せるようになったためです。一つのシーンの中に複数の曲の入った(二部~三部形式)
 カヴァティーナ・カヴァレッタ様式や敏捷性のある音でフレーズが構成されるアジリタなどの手法
 がこの時代のポイントです。

♬ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」より《空は微笑み》1816年

♬ベッリーニ「清教徒」よりおお、愛らしい乙女よ》1835年

・旋律の魔術師 プッチーニ
 プッチーニは数々の大ヒットオペラを作曲しました。その時代は大勢で多くの楽器をつかうオーケ
 ストレーションの変化があり、声楽もその中でオーケストラの多用する周波数とは違う声楽の周波
 数を使った声楽技法の変化で小さな声でも遠くまで聞こえるような技法を使うようになりました。

♬プッチーニ「トスカ」《星は光りぬ》1900年

【第二部 オペラのテキストを読んでみよう、歌ってみよう】

♬ヴェルディ「ナブッコ」《行けわが想いよ、黄金の翼に乗って》

・オペラは詩でできている
 まずオペラは詩で出来ていると冒頭にも申し上げましたが、オペラ(詩)のリズムと言葉が効果的な
 形で「韻文」となっています。「ナブッコ」というオペラは旧約聖書からの話です。イタリアの第
 二の国歌ともいわれ、イタリア人には大変エモーショナルな歌で、サッカーの試合の大会などでも
 必ず演奏されます。

・オペラの詩の読み方
 この詩は一行が10個の音節を構成し、最後の部分が「韻」となっており、お経を読むように1音
 節ずつ読んでみましょう。と言う事で会場の参加者と一緒に詩を朗読します。
 Va, pen-sie-ro , sul-l`ali do-ra-te;
 va, ti po-sa sui cli-vi, sui col-li,
 o-ve^o-lez-za-no te-pi-de^e mol-li
 l`au-re dol-ci del suo-lo na-tal!

  行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って
 行け、あの山や丘で憩いつつ
 祖国の暖かく柔らかい風が薫っている

・合唱
 ピアノの伴奏で会場参加者全員でこの曲(詩)を歌いました。

講演後の質疑応答

Q : 日本語や英語のオペラはないのですか
A : 日本語では團伊玖磨作曲の「夕鶴」などがあります。英語ではレナード・バーンスタイン作曲の
 「キャンディード」などがあります。

Q:はじめて見るオペラにおすすめの作品は
A:ヴェルディの「椿姫」がおすすめです。

Q:声楽家はみんなオペラ歌手を目指すのか
A:オペラ歌手だけではなくミュージカル歌手や宗教曲楽ソリストもいます。

Q:先生の一番好きなオペラは
A:いろいろあるが「椿姫」や「フィガロの結婚」などです。

Q:オペラはマイクを使わないのか
A:原則は使わないが、大劇場では台詞部分にマイクを使うこともあります。

Q:オペラとオペレッタの違いは
A:オペレッタはイタリアにはなく、オペラはすべて歌で出来ています。一方オペレッタにはせりふが
 あり、ワルツやダンスが多く肩の力を抜いて楽しめます。オペレッタの代表的作品に「こうもり」
 (ヨハン・シュトラウス2世作曲)があります。

(国際学術文化委員会 梅根敬一郎)