世界を見よう! みなとUNESCOサロン for SDGs
英国と日本 ふたつの国に見る 似ている所、違うところ
講師 : Sarah Emily Harrison(サラ・エミリー・ハリソン)氏
日時 : 2022年9月21日18:30~
会場 : 港区立生涯学習センター305号室
Sarah Emily Harrison さんは、昨年12月の日本語スピーチコンテストに田部会長の推薦で登壇され、そのご縁で本日の講演会に繋がりました。
講演は、「お互いに長い歴史があり島国という国同士、食事・建物・教育に焦点を当てて比較をし、幾つかの『違い』の理由を探っていきます。」と サラさんの挨拶から始まりました。
(1)食事
イギリスの料理として「フィッシュアンドチップス」「ローストビーフ」は有名ですが、他に「サンデーロース
ト」「シェパーズパイ」「フル・ブレックファスト」「バンガーズアンドマッシュ」「パスティー」そして「ス
テーキアンドキドニーパイ」などがあります。
夏の気候でイギリスの「涼しくてドライ」に対して日本の「蒸し暑い」は、美味しく安全なバクテリアを育てる
環境にもなります。イギリスの緯度は55.3度、日本は36.2度。この違いと夏の気温の違いも農業全体に説明で
きます。
★主食
ポテト、パン、ペストリー(pastry)が主食の国とお米の国。
★発酵食品が英国は少ない
イギリスのビール、パンそしてブルーチーズは発酵食品です。
日本料理には醤油、味噌、漬物など多彩に発酵食品があります。
★魚料理が英国は少ない
・「フィッシュアンドチップス」以外に有名な魚料理は無い。何故でしょう。
①「ヘンリー7世とビーフィーターズ」
1400年代後半を統治のヘンリー7世が日曜の教会の後に衛兵たちに「好きなだけ牛肉」を食べさせたこと
か「日曜のローストビーフ」は伝統になり「ロイヤルガードのビーフィーターズ」として広く知られるよ
うになりました。
②「ヘンリー8世とカトリック教会からの分離」
1500年代にイングランドはカトリック教会から分離し、プロテスタントになりました。カトリックの人は
毎金曜日に「魚」を食べていたことやカトリックのシンボルが「魚」だったということから「魚はカトリ
ック過ぎる」ということで遠ざけられてきた歴史があります。
③現在
北海を含めクオリティの高い魚が豊富にとれますが、プレミア価格でフランス、スペインが買ってくれる
ので輸出をし、外貨を得る方向もあるようです。
・どうして伝統的な日本料理は魚を食べて、肉食が少ないのでしょうか?
①農業を手伝う動物を食べることは労働力を殺してしまうことになります。
②日本への仏教伝来:人間は他の動物に生まれかわる・・・先祖を食べてしまうことになる。精霊を尊重する
仏教の原則は日本文化を形成してきました。お肉を食べることは約千年間も禁止でした。天武天皇の675
年から明治時代までです。ヤギ、狼、ウサギ、タヌキ、豚、鹿、牛肉を食べると神社に参拝の前に「懺
悔」で償うことが必要でした。このように「食事」の違いは気候によるものが多いですが、哲学や宗教も
重要な役割を担っています。次に「美意識」で比較しましょう。
(2)建物で見る美意識
イギリス:有名な建築はカンタベリー大聖堂、バッキンガム宮殿、セントポール大聖堂が挙げられます。私の大
学の街のダラム大聖堂、生まれ故郷のライム公園の家、マンチェスター公会堂。日本:地震を考えての建築材
料、湿度を考慮した「木造」、梅雨の雨をしのぐ「屋根の形態」。
・土地・気候以外に目を移して色、高さ、光、大きさ、形、デザインから探ってみましょう。
★色
イギリス:自然な「石」の色。キリスト教での「赤い色」は地獄、サタンを連想させます。
日本:赤い色:浅草寺、厳島神社。神道での「赤い色」は災難を避け、悪霊を追い払います。
★高さ
イギリス:キリスト教:一番上に神様がいらっしゃる。尖塔が高ければ教会は力強くなる。
日本:神道のアニミズム的考えは「自然や生き物の中に神は存在」しているとし、仏教では如来と菩薩の存
在がテーマで、上にある天国を目指しておらず、神殿の高さは必要ないのです。
★光
イギリス:キリスト教:多くの光を長く大きな窓から取り入れます。
日本:明月院の窓:風景を強調する為に作られ、四季折々の仏教の「無常」を考えるきっかけになる。
★大きさ・形・デザイン
イギリス:壮大さ、シンメトリー、完璧さを追求。これは古代ギリシア人のデザイン思想によります。それ
は数学に強い関心を持っていることです。「建築は論理に従い完璧なシンメトリーとプロポーシ
ョンがあるべき」そして「完璧さ」を神様に結びつけ、天国にもっと近づく為の方法でした。セ
ントポール大聖堂、大英博物館は一例です。
日本:シンメトリーはあるが、仏教による謙虚さを優先、完璧さ壮大さは敬遠。わびさびが重要なデザイン
思想で不完全さを受け入れるという教えです。
(3)庭園で見る美意識
イギリス:エリザベスⅠ世の時代に数学的なシンメトリー庭園が人気になりました。自然を超越したいという考
えがここにもあります。
日本:自然を「写す」ところから始まるので「非対称」。植物を配置し、空間とみえる「砂」、「岩」は神聖、
純粋で神を招くもの。「無」、「間」を表わしています。
明治に入るとイギリスからの影響(鉄道、政治体制)がありましたが、第二次世界大戦後の日本には「アメリカ」の影響が多くあります。そのひとつ「教育システム」をみてみましょう。
(4)教育システム
イギリス:「セカンダリースクール」(5年間)の後に、16,17歳「シックスフォーム」(4つの専門だけ学
ぶ。サラさんは文学、歴史、哲学、宗教学を専攻。)と進む。「早期専門化」は、大学の準備に役立
つが、選択しなかった領域の欠落が悔やまれることもあります。
アメリカ:11~13歳「中学校」、14~17歳「高校」。日英の似ている点は「制服」があること。
★ 学位取得までの期間
イギリス:3年間。試験を失敗したら再試験を受けることができない。
日本・アメリカ:4年間、単位を落としても1年間の留年が可能
★ 大学の教育の制度
イギリス:1年生時から専門だけを学ぶ。
日本、アメリカ:2年間に専門以外を学ぶことができる。サラさん自身、日本の大学に留学して哲学だけでなく
歴史、社会学、そして日本語を学ぶことができて嬉しかったそうです。
★ 大学の一年間の学費
イギリス:全ての大学が国立。上限9,000£(147万円)と決められている。全てのイギリス人学生は学費と生活
費をカバーする政府ローンを申請。給料に見合った返済システムが適用されるメリットがあります。
アメリカ:ハーバード(私立)54,000$(727万円)、バークリー(国立)44,000$(地元住民14,000$)
日本:慶應(私立)98万円、東京大学(国立)53万円
以上、食事、美意識、教育と3つのことでイギリスと日本との違いについ説明してきました。目的はその具体例と違いの原因を探ることでした。文化の違いが多数あったとしても「気候の違い」と「哲学的、宗教的な違い」をみつけることができました。グローバル化した今、私たちの哲学は益々似てきています。その上、宗教を信ずる人も少なくなってきています。将来には私たちの文化もそれに反映していくことになるのでしょうか?ご静聴ありがとうございました。
(会員開発委員会 担当副会長 小林敬幸)