世界を見よう!みなとUNESCOサロン
“鉄”のおはなし
~ 宇宙、文明と製鉄、そして環境 ~
日時:2021年5月21日(金)18:30~19:50
会場:港区立生涯学習センター3階305号室
主催:港ユネスコ協会
講師 砂原公平氏 [日本製鉄株式会社 技術開発本部プロセス研究所 試験高炉プロジェクト推進部 試験室長、博士(環境科学)]
新シリーズ「世界を見よう!みなとUNESCOサロン」と題して、現場の第一線の方のお話しをお聞きする講演会を
スタートします。
第1回は、製造業の要の「鉄」をテーマとして砂原公平さんをお迎えしました。
<本日のテーマ> ★「地球がなぜ“鉄”の惑星なのか?」138億年前のビッグバン以降の元素生成で特異的に多い「鉄」、そして45億年 前に生まれた地球の約3割が「鉄」。 ★4千年前のヒッタイト人の鉄器使用で「文明と鉄の歴史」が始まった。14世紀からの英仏百年戦争での「武器・ 戦艦」の為に大量の木炭を燃やすという森林破壊が起き「地球環境問題」が起こった。 ★ 産業革命時に「石炭」の発見。 ★「鉄と森と火の関係」、人類がいかに工夫をし「鉄」を「文明」へと結びつけていったか。 ★今日の「製鉄」と「環境への取り組み」。 国を上げて同業全社での取組み。 |
1.なぜ、地球が“鉄の惑星なのか?
少年時代は宇宙を夢見、その後は物理学を専攻した氏は、近年証明された幾つかの「発見」に心を弾ませながら・・・
全部の星が地球から遠ざかっている・・・宇宙の膨張(1929年アメリカのハッブルが発見・ドップラー
効果)、10次元宇宙が「3次元の膨張と 7次元の収縮」と分かれたという多次元インフレーション
理論は「ヒッグス理論」の枠組みをモデルにしていたことは30年前に説かれていたが、理論だけでなく
2012年のヒッグス粒子の発見で証明され、2013年にヒッグス氏はノーベル賞受賞されたのです・・・・
と宇宙論からお話しは始まりました。
138億年前: 宇宙の始まりはクオークのスープ(素粒子のぎゅうぎゅう詰め状態)
→ 約3分後に陽子、中性子、その後、水素、ヘリウムの生成
→ 鉄まで核融合(星の生成)、鉄以上の元素は超新星爆発で生成
鉄、コバルト、ニッケル付近が宇宙で最も安定な元素
46億年前: 太陽系ができ、地球の生成(35%は鉄)
44億年前: 海の生成(高圧・高温200℃)
40~38億年前: 生命の誕生(まだ酸素なし)
30~27億年: 磁場の生成(宇宙放射線のバリアにより生命の繁栄)酸素発生、地表に酸化鉄
20~19億年前: 複雑な生物の誕生・・酸素の大量供給(1%)
13億年前: 2つのブラックホールが衝突・・・2015年9月に重力波を受信
7.2~6.3億年前: スノーボールアース※ 酸素濃度ほぼ現状並み(20%)オゾン層形成により生命の繁栄
5億年前: 生命の繁栄(種類の増加)・カンブリア爆発(現在の化石燃料)
4億年前~6500万年前の間に数回の生命の80~90%の絶滅の時期
2.鉄と森と火:人類の文明の歴史 人類が石から金属を手にした文明とは?
3390万年前: 南極大陸の孤立。有胎盤類から類人猿(アフリカ)
300万年前: アウストラロピテクス(猿人)・・脳450cc
260万年前: ホモ属の石器使用
150万年前: ホモエレクトス・脳1580cc イルカを抜く
50万年前: 北京原人ジャワ原人・・石器・火の利用 2万年前まで5回の氷河期
2.8万年前: ネアンデルタール人・脳1550cc 石器文化。クロマニョン人・高度な文化、武器
1.3万円前: 最後の氷河期終わる・・・日本では縄文時代へ
6000年前: 青銅器時代・・・銅は1084℃で溶ける・・融点が低く「銅」の利用が盛んとなる。
1トンの「銅」を作るのに約100トンの「木炭(2千本以上の松の木)」が必要
膨大な森林を必要とする「銅」の衰退。 (環境問題 ① )
4000年前: ヒッタイト人の鉄器・・「銅」の精錬時の不純物の中に「鉄」を発見。
1トンの「鉄」を作るのに10トン以下の「木炭」で十分。 (環境問題 ① 解決)
6Cごろ: 日本に「製鉄」が伝わった(縄文時代が長く世界の中で遅いスタート)。
でも鉄の原料の鉄鉱石・砂鉄・炭(森)は、国内のどこにでもあったことで農耕・畜産と同様に「製鉄」も地域ごとにその地の原料で製鉄
されるという地産地消だった。弥生時代から伝わる各地の農耕具を調べてみるとそれぞれの形態、配合に個性が見られることで分かる。
日本の鉄はスタートが遅くても良質の理由の一つに「持続可能なふんだんな森」があっての「不純物のない良質な鉄」ができたことがある。
西洋の森は100年も掛けて森が育成される。それに比して日本の森は雨量の多さにより30年で森が再生される。日本の古代から近世にかけて
の「たたら製鉄」もその中で育まれた。
○ 日本の刃物 世界で一番よく切れる
○ 日本の包丁の種類は世界一 肉・魚・野菜とそれぞれに対応した工夫がある。
○ 錆びない和釘・・法隆寺
14C~16C: 英仏百年戦争で武器、戦艦の製造の為の「鉄」で大量の「木炭」を使用。森林破壊を招いた・・・(地球)環境問題 ②
17C~19C: 産業革命の時は「ブラックダイヤモンド(石炭)」を発見したことにより化石燃料の利用で森林を破壊せずにして「緑」は戻った。
(環境問題 ② 解決)
今日の「製鉄」: 日本の森は豊かで「たたら」の様な技術で「日本刀」などの高品質で少量の製品は作れていたが、今日の大量生産に対応するには
石炭、鉄鉱石の輸入に頼っている。ブラジル・オーストラリアなどから「鉄鉱石」を輸入し、コークス(石炭から精製)と石灰石
で高さ100mくらいの「溶鉱炉」で製鉄。炉の中では1200度で鉄鉱石が溶け、1500度の「鉄」ができあがる。1トンの「鉄」を作
るのに約0.5トンの「石炭」
3.環境への責任と新たな火とは?「第4の革命」
1960年代: 石炭石油(化石燃料)の使い過ぎでのCO2問題(地球温暖化) 新たな環境問題 ③
「原子力発電による解決」の策は2011年以降再考の段階。日本のCO2直接排出量は「12億2700万トン」その構成比は、エネルギー転換部門
39%、産業部門28%、運輸部門17%・・・その中で鉄鋼業は産業部門のうち約半分を占める。国家プロジェクトとしてオールジャパンで
「いかにしてCO2を減らすか」が課題。(環境問題 ③ その解決方法は?)
大量生産による資源枯渇、化石燃料による「地球環境問題(CO2)」の中、新たなエネルギーとして「水素」が今日取り上げられて、トヨタ自動車の
「ミライ」で見られるように世界中で「水素」の強奪戦が始まっている。「第4の革命」 農業革命、産業革命、そして情報革命、それに続く「脱炭
素革命」を第4の革命と最近言われている。 以上を踏まえて国家プロジェクト「COURSE 50」 COURSE50 | 一般社団法人 日本鉄鋼連盟 (革新的
製鉄プロセス技術開発)が2008年から始動。この具体化の為に「試験高炉」を位置づけている。日本の鉄鋼業として省エネ努力により生産工程で世界
最高水準のエネルギー効率を上げ、地球温暖化対策としてのCO2削減・回収する技術を国家的に研究。今後を見守って欲しい。
まとめ 「鉄」の歴史は宇宙の成り立ちの時から始まり、人類は「鉄」を道具として利用し始めて、食・住・生活の良き面と武具の面の「文明」を担ってきた。今後とも「平和」を探求し製造過程の「環境」を整えていくことに邁進されている砂原氏の地球規模の考え方に多くの教示を受けた一日でした。 |
(会員開発委員会担当 常任理事 小林敬幸)
(文化体験教室委員会 副会長 平方一代)