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海外を笑わせた落語

2018年度第3回国際理解講演会

海外を笑わせた落語

講師:鹿鳴家英楽(かなりや・えいらく)氏
日時:2019年1月22日(火)18:30~20:30
会場:港区生涯学習センター101号室

講師紹介 永野会長
本日の講演会を担当している私共の国際学術文化委員会は国際理解をテーマにしているので、今回はその目的に相応しいと思う。鹿鳴家氏は日本にもユーモアがあるということを海外で紹介しておられるが、昨年の当協会の新年会で特別ゲストとして英語落語をして頂き大好評を博したので、もっと多くの方に聴いて頂きたいと思い、本日の講演会を開催した次第です。

講師プロフィール
英語落語家、神田外語大学・駒澤大学講師、キャナリー英語落語教室主宰。専門は英語教育だが落語や邦楽など日本文化に親しみ、国内外で落語や日本の歌を英語で公演。国内は小学校から大学、海外でも大学やJICAなどの国際機関で公演している。1983年に立川談志氏が落語立川流を創設した直後に立川流に参加。

講演内容の要約
まず、ウクレレを片手に牧伸二の漫談を日本語と英語で披露した。
「赤はストップ、青ならゴーで、黄色注意の信号灯は、年中変わるけど変わらないものは、うちの家計簿赤ばかり」
→The red light means stop, and green light go, yellow light caution; that` s a traffic signal. It changes all the time, but what does`nt change is a red of our housekeeping account.

「アメリカ、カナダは本腰入れてタバコと対決してる。日本の政府は出来ません。大株主だよJTの」←英語にできる「地震が多くておちおちできない。今後あるかと気象庁に聞いたら観測してるけど、とても自信はありません」←英語にできない。ダジャレは翻訳不可能。
東京の寄席では、落語会に俗曲や漫才、手品、こま廻しのような色物が入る。
19世紀にできた都々逸も寄席でよく演じられる。以下、都々逸の例。
「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」←英語にできる
「噺家殺すに刃物は要らぬ欠伸三つで即死する」←英語にできる
「信州信濃の新蕎麦よりもあたしゃあなたの傍がいい」←これもダジャレなので英訳できない。


「三千世界のカラスを殺し、主と朝寝がしてみたい」
これは遊女を歌った都々逸で、高杉晋作の歌と言われている。高杉は江戸末期の勤王家。三千世界の烏は幕府方を指し、幕府方をみな殺して天皇に寄り添いたい、というのが本来の意味らしい。ちなみに、三千世界は仏教用語では全世界を表す。この歌を、ラフカディオ・ハーンが訳している。ハーンは、母方の国ギリシャで生まれ、アイルランドで教育を受けた後、アメリカで新聞記者になり、40歳で来日して英語教師となった。その後、日本女性と結婚して小泉八雲となった。怪談噺で有名だが、都々逸も70ほど訳している。以下がこの歌のハーン訳で、元の日本語と比べると情報量が多くなっていることがわかる。
→This is my desire. To kill the crows of three thousand worlds, then to repose in peace with the owner of my heart.

海外での活動
昨年は2月にアメリカのアリゾナ州とカリフォルニア州、4月末にラオスで公演した。アリゾナでは日本文化紹介のフェスタに参加し、ラオスでは国立ラオス大とJICAで公演した。今年は3月にカザフスタンのアスタナ市とジョージアのトリビシ市で公演予定。ジョージアはワイン発祥の国で、宗教はジョージア正教、カザフスタンはイスラム教で禁酒国なので、国によって噺をアレンジすることもある。

国内での英語落語会
定期公演は3月と9月にお江戸両国亭で行う。また、浅草のセブンガーデン(外国人宿泊施設)では毎月第三日曜日、4時から開催。「昭和元禄落語心中」が海外でも紹介されている影響で、外国人でも落語に興味を持つ人がいる。公演の詳しい日時は「キャナリー英語落語教室」のウェブサイトをご覧ください。

英語落語
英語落語に最初に取り組んだのは桂枝雀(1939~1999)で、1990年に枝雀の落語を生で聴いたことが、英語落語を始めるきっかけとなった。『枝雀のアクション英語講座』には、落語を英語にする際の言葉や文化の問題が興味深く語られている。言葉の問題としては、「夏の炎天下、お日さんがカーっと照りつける」に出てくるような擬態語の訳し方がとりあげられている。文化の問題としては、「愛宕山」に出てくる竹がとりあげられている。アメリカの竹はしならないので、その場面がアメリカでは通じなかったらしい。
「時蕎麦」では江戸時代の時間や通貨が出てくるが、現代と違うため、訳しきれない部分が出てくる。食事のときに音を立てるのは外国では御法度なので、そばをすする音についても、まくらで解説する必要がある。

日本語の笑い
日本語の笑いはダジャレが基本にある。日本人は子供の頃からその習慣が身についている。
「ここを台所にしようか?」「勝手にしろ!」
大人になると謎かけを楽しむ。
「新聞の朝刊とかけて坊主ととく」「その心は袈裟(今朝)着て(来て)、経(今日)読む」

英語の笑い
英語にもダジャレはあるが、内容で笑わせるものが多い。以下は新年のジョーク。
A:I have made two New Year`s resolutions. Starting January 1st, I will start a diet and stop eating sweets.
B:That`s great.
A:Starting January 2nd, I will stop lying.

日本だと新年の抱負、というが、英語のresolutionは「決意」なのでニュアンスが強い。殆ど守り通すことが出来ないのでジョークの対象となる。「1月1日に減量と甘いものを止める決意をして、2日目に嘘をつくのを止める」というもの。参加者全員で、いくつかの英語ジョークを楽しんだ。

落語と西洋文学
落語は日本や中国の民話や笑話に基づくものが多いが、実は西洋ネタもある。本日は西洋ネタを2席。

第1話:「動物園」
イギリスのショートストーリーが原作で、アルバイトを探していた男が動物園の虎になる。まず、鹿鳴家おそらさん(左写真:仕事は気象予報士)が日本語で演じて、その後、英楽師匠が英語落語で笑わせた。
第2話:「死神」
グリム童話の「死神の名付け親」が原作で、貧乏で子だくさんの男が死神に出会う。男は貧乏を逃れる術を死神から教わる。まず、鹿鳴家おそらさんがグリム童話を朗読し、その後、英楽師匠が英語落語で応じた。
今回は高台を設置して寄席らしい雰囲気でお客様を迎えた。ウクレレ漫談と落語で会場は盛り上がった。日本のユーモアの原点の一つである落語が最近、人気になっている。数多い海外公演で世界を笑わせて、文化交流に励まれている鹿鳴家英楽師匠の今後のご活躍を期待したい。