2022年度第3回国際理解講演会
日時:2023年2月19日14:00~16:00
会場:港区リーブラホール
田部会長の挨拶に続き、この講演会の発案者でもある日本ユネスコ協会連盟会長佐藤美樹氏から日本ユネスコ協会連盟におけるウクライナ支援の概要にもふれたご挨拶がありました。会場には97人の方がご参加下さり、当日、総額77,000円の支援募金が集まりました。これは日本ユネスコ協会連盟を経てウクライナへ送られることになっています。
第1部 ウクライナの世界遺産と無形文化遺産 (友野講師)
当日の友野講師の講演の模様を動画でもご覧いただけます。
こちらからお楽しみください → https://youtu.be/mtWtdYeJIfA
友野先生の別の動画「ウクライナの歴史」もどうぞ! → https://youtu.be/Co7s028NFjg
1.タウリカ半島の古代都市とチョーラ
古代ギリシャ植民都市の遺跡。数百のチョーラ(長方形の小区域)がありました。
2.キーウ:聖ソフィア聖堂と関連修道院群
11世紀にヤロスラフ賢公によって作られました。ウクライナ建築史上もっとも名だたる教会です。13のドーム
からなり、モンゴルの侵攻により破壊されましたが、18世紀に改修されました。ところ狭しとイコン(聖人の絵)
が飾られています。
3.ペチェルスカヤ大修道院
キエフ大公国の興亡を今に伝える遺構です。ナチス・ドイツに破壊されましたが、ウクライナ独立後、復元されま
した。
4.ブコビナ・ダルマチアの府主教の邸宅
ブコビナとはブナの国の事。ポーランドとの国境にブナ林があります。18世紀オーストリア・ハプスブルグの領
地となり、チェコ人の建築家の設計により建てられました。色々な建築様式を集めた歴史主義建築です。現在は大
学の一部になっています。
5.シュトルーヴェの測地弧
ノルウェーからウクライナのネクラシウカまで2820㎞、265地点でシュトルーヴェが三角測量をしまし
た。
地球の大きさや楕円形であることが分かりました。19世紀の科学技術の成果です。(三角測量の説明あり)
6.リヴィウ歴史地区
ポーランドの国境近くで、今回のロシア侵攻で爆撃を受けました。ルネッサンス、バロック、東欧風等様々な建
築様式の建物が。ポーランド、スウエーデン、ロシア、オーストリア、ポーランド、ソビエト、ナチス・ドイツ
等に支配されてきた歴史があります。
7.オデーサの歴史地区
今回世界遺産委員会を通さずに、緊急登録されました。「世界遺産等文化財には爆弾を落としてはいけない」とい
うハーグ条約で町の文化財を守る目的です。オスマン帝国の領土からロシア領土になってから栄え、古い建物が残
っています。ユダヤ人が多く、ポチョムキン号の反乱でも有名な場所です。
8.カルパティア山脈と他のヨーロッパ地域のブナ原生林
ウクライナとスロバキアのブナ林が自然遺産登録後、ヨーロッパの各国が登録申請し、18か国のブナ林が登録さ
れています。ブナ林はかつてヨーロッパの40%を占めていました。ブナ林は森の発展(遷移)の最終形として重
要です。
9.カルパティア地方のポーランドとウクライナ領にある木造教会群
石造りではなく、木造の素朴な教会群。中には所狭しとイコンが飾ってあります。
10.無形文化遺産
手では触れない遺産で現在667が登録されています。 ウクライナでは①オルネク、クリミアタタールの装飾品と
それに関する知識、②コシフ塗装(絵画)陶器の伝統、③コサックのドニプロペトロウシク地方の歌、③ペトリキフ
カ装飾絵画、④ボルシチ料理の文化(緊急保護が必要な無形文化遺産として登録されましたが、ユネスコはボルシチ
をウクライナ固有の食べ物として認めた訳ではありません。ただ、ボルシチはウクライナが起源で、昔のロシアで
はビートは収穫できませんでした。)
第2部 音楽の中のウクライナ(倉林講師)
1.果てなき大地の上に♪
今、戦火に見舞われているウクライナに多くの人が涙しています。しかしウクライナはよく知らない国。でも、自
分のささやかな音楽人生を振り返るといくつものウクライナがありました。それを話すことでより身近な国として
感じてもらいたいと思います。
加藤登紀子さんは「果てなき大地の上に」というアルバムを昨年5月に出し、収益の全てをウクライナに寄付して
います。彼女のお父さんは音楽プロデューサーとして活躍し、その後昭和46年にキエフ市と京都市が姉妹都市と
なったのを機に故郷の京都・祇園にレストラン「キエフ」を開店し、その店は51年続いています。このアルバム
には「百万本のバラ」が収録されていますが、原曲はロシアの脅威にさらされているラトビアの抵抗の歌。また、
「花はどこへ行った」も戦争に翻弄されるコサックを描いた「静かなるドン」に触発されてアメリカのピート・シ
ーガーが作曲した最も有名な反戦歌。
2.キエフの鳥の歌♪
北海道合唱団がウクライナ公演をした際、歓迎会でバンドーラの弾き語りで歌われたウクライナの歌を指揮者が訳
詩したもの。
3.キャロル・オブ・ザ・ベル♪
現在、世界中で最も歌われるクリスマス・ソングの一つ。ウクライナ民謡を基に合唱曲が作られました。昨年のX
マスにNATOがラトビアで歌い世界へ発信しました。
4.ドニエプルの赤い罌粟(けし)
コサックとポーランド総督の娘との悲恋を描いた宝塚歌劇の作品がありました。宝塚歌劇は1975年にウクライ
ナ公演を行っています。鳳蘭さんは台湾国籍のため入国することが出来ませんでした。 大正末期から昭和の初めに
かけて宝塚でバレエを教えたオソフスカヤさんの夫のメッテル氏はウクライナ人の指揮者で、朝比奈隆や服部良一
を育て、関西音楽界の父と呼ばれています。
5.バレエ大国ウクライナ
ウクライナ国立バレエ公演が1月に日本で開催。キーウでは週2回の公演を行っていますが、観客は200人に限
定しています。爆撃があった場合にシェルターに収容できる人数です。芸術家が舞台に立つのは兵士が前線に立つ
のと同じだと言います。日本でも昭和21年に日本人だけの「白鳥の湖」が上演されました。終戦直後の状況の中
で奇跡の公演と言われていますが、多くの人の心に光を与え音楽や芸術の力を示しました。
6.キエフの大門♪
キーウにあるキエフ大公国時代の中央門はモンゴルにより破壊され、ムソルグスキーが「展覧会の絵」を作曲した
時にはありませんでした。「展覧会の絵」の最終章「キエフの大門」は親友の画家で建築家のハルトマンの追悼展
覧会の絵に触発されて作曲したピアノ組曲です。これをラヴェルが見事な協奏曲にしています。
7.マゼッパ♪
17世紀のウクライナの英雄マゼッパを描いたビクトル・ユーゴーの叙事詩「マゼッパ」に15歳のリストが感動
しピアノ曲を作りました。恋多きリストの最後の恋人はキーウの女性です。
8.カルシュ・オーケストラ「ステファニア」♪
2022年ヨーロッパ最大の国別対抗音楽祭でウクライナのフォーク・ラップグループが優勝。彼らはキーウ近郊
の爆撃を受けた場所の映像を音楽とともに世界に配信しました。
9.ウクライナ国歌♪
自由と独立のために闘う気持ちが溢れています。
(国際学術文化委員会 山田祐子)