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Minato Unesco Association

ユネスコ「世界の記憶」から平和のために何ができるか

2025年度 港ユネスコ協会 シンポジウム
ユネスコ「世界の記憶」から平和のために何ができるか

日時:2026年2月4日(水)19時
会場:国際文化会館別館2階 講堂
主催:港ユネスコ協会 共催 港区教育委員会

講師:小林美保氏 日本ユネスコ国内委員会 事務局次長
講師:柴田泰山氏 浄土宗総合研究所研究員
パネリスト: 都立三田高校 ユネスコ委員会
      後藤由歩さん2年  丸山泰生さん1年
      深井颯さん2年  髙橋夏帆さん1年

港区に所在する浄土宗大本山増上寺の所蔵する「大蔵経」が、2025年「世界の記憶」に登録されたことから、「世界の記憶」の意義、果たすべき役割をテーマにシンポジウムを開催いたしました。清家愛港区長のビデオメッセージの後、日本ユネスコ国内委員会事務局次長 小林美保氏から、「日本のユネスコ加盟75周年記念プロジェクト」のご紹介とご講演をいただき、その後、浄土宗総合研究所研究員 柴田泰山氏のご講演、都立三田高校の生徒さんから提案がなされました。 以下、要約です。

小林美保氏 

「ユネスコ『世界の記憶』事業について」

1992年 事業開始。(登録制度:1995年開始)この事業は、1.世界の重要な記録遺産を保護して保存すること。2.なるべく多くの人がアクセス出来るようにすること。3.加盟国の記録遺産の存在や重要性の認識を高めることを目的にして、開始されました。日本での認知度はこれからで、増上寺の経典が、昨年登録されたことで、注目されていますので、盛り上げていきたいと思います。以下、登録制度の概略です。

登録申請:所有する団体が申請書を日本ユネスコ国内委員会に提出し、そこで審査されます。2年に1回のサイクル。日本ユネスコ国内委員会が2件までに絞り込んだ上で、ユネスコに推薦します。そして、ユネスコ本部に設けられる委員会で審査され可否が発表されるというルールになっています。

登録制度:登録はゴールではなく、スタートです。登録によって資料の価値が国際的に認められて、ここから本格的に保存活用の発信の取り組みが始まります。登録は、資料を未来に生かしていくための行動を始めること。

対象:手書きの原稿、書籍、新聞、ポスター、地図、映画、フィルム、写真、デジタル記録等。
例)グーテンベルクの活版印刷の聖書、中国の甲骨文字、ベートーベンの第九の直筆の楽譜など。
世界の登録:国際登録570件 地域登録 86件
日本の登録:国際登録9件 地域登録1件
申請中(2026―2027年 国際登録サイクル):観世宗家伝来 世阿弥能楽論「風姿花伝」 2027年の春に登録の可否が分かる。

今後の展望:申請が少ないのが課題。「世界の記憶」の趣旨にふさわしい、良い案件を発掘して「一覧表」にして整理し、文部科学省として、申請者のサポートをする仕組みを進めていくこのような取り組みによって、保存によって過去の記録を継承し、公開することによって、異文化理解が深まり、国際発信を通じて国境を越えた対話と相互の尊重が進むなど、多様性を認め合う姿勢が育っていくと意義を考えています。「歴史認識」のように、政治的対立があった経緯もありますが、本来は、対立が生まれるような制度ではなく、人類の共通の記録を守って、相互理解を深め、平和の砦を築くことが、この制度の根本理念です。このような取り組みが積み重なっていくことで、「世界の記憶」がユネスコの理念である平和の構築に確実に繋がっていくと考えています。

柴田泰山氏 

「増上寺大蔵経の「世界の記憶」を起点として、いま何ができるか」

宗教聖典
 三種の大蔵経 12000点(木版印刷)が、ユネスコ「世界の記憶」に国際登録されました。文部科学省、ユネスコ協会の皆様のお蔭でございます。この三種の大蔵経は、徳川家康によって寄進されたものです。インドでできたお経が、中国で翻訳され全部漢字で書かれています。

 大蔵経を仏教と考えずに「宗教聖典」と考えれば、キリスト教やイスラム教であれ、さまざまな文献が考えられます。ユネスコの「世界の記憶」の中で、宗教聖典が登録されている事例は、他にないのではないか。宗教聖典とは、その宗教において究極の真理や神の言葉が記されているものと信じられている最も権威ある書物で、単なる読み物ではなく、信者や信徒にとって、人生の指針であり、世界の成り立ちの解説書。即ち、そこで神様、仏様に出会い、神様、仏様の言葉が聞こえるのが聖典という存在。その意味において、グーテンベルクの「聖書」、または、「クルアーン(コーラン)」からはアラーの言葉が聞こえる。お釈迦様の声が聞こえてくるのが、「大蔵経」です。三大蔵の登録の意義は、宗教聖典が世界的な文化財として認知されたことです。

大蔵経と増上寺三大蔵
 大蔵経には、釈尊が説示した教義(経)、及び、仏教教団の規則(律)、その注釈書である論書(論)があり、これを三蔵と呼びます。翻訳した人が三蔵法師。世界宗教である仏教には、サンスクリット語、パーリ語、チベット語、中国語に翻訳されているが、増上寺にあるのは中国語訳です。①宋版 ②元版 ③高麗版で、増上寺の三大蔵と呼びます。

 増上寺の「三大蔵」は、印刷文化の結晶、漢字文化の結晶であり、活字文化の結晶です。将軍家菩提寺としての歴史、浄土宗の歴史を伝えるのが浄土宗大本山増上寺です。
①宋版(中国 南宋時代、12世紀)
②元版(中国 元時代、13世紀)
③高麗版(朝鮮 高麗時代、13世紀)

増上寺三大蔵から見た「平和」 
・自分の他に他者が存在することにおいて、多様性、多在性・多元性・協調性、寛容性が必要。他の文化や信仰があっても、互いに尊重し合い、共存すること。
・様々な悩みをどうやって乗り越えるか。「大蔵経」においては、平和と安穏を祈ることを提言している。   
・「平和への祈り」は、人間は平和を求め、平和を作る。これがユネスコの起点と考えます。これらが、「大蔵経」存在の意義である。

都立三田高校ユネスコ委員会

「若い人からの期待」

後藤由歩さん(ごとう ゆうあ)2年 
 このような素敵なシンポジウムの場で、若者の一人としてお話させていただく機会をいただき、心から嬉しく思います。本日は、都立三田高校ユネスコ委員会の紹介と「世界の記憶」に対する若い世代の現状をお伝えし、私達が考えた「世界の記憶」制度に対する提案と期待についてお話したいと思います。まず、委員長から活動紹介です。

丸山泰生さん(まるやま たいせい)1年
 委員長の丸山です。都立三田高校ユネスコ委員会では、都立三田高校生や親御さんに向けて日々活動をしています。4つのチームに分かれて活動を行っていますが、今日は、文化祭で活躍した2つのチームをご紹介します。9月の三田高校の文化祭では、ユネスコ委員は、バザーと募金を行いました。また、募金に当たり、実際にガザ地区に支援を行う国際NPO「地球のステージ」さんから、ガザで今何が起きているのかについてお話を聞きました。ガザの現状について理解を深め、バザー活動への理解を深めることができたと思います。バザーと募金で集めた6万円に、その他生徒会の売上げを足して、合計16万円を、「地球のステージ」さんに寄付させていただきました。三田高生やユネスコ委員会にとっても、ガザなど世界で起きている戦争や紛争に思いを向ける機会になったと思います。これからもユネスコ委員一同は、活動の幅を広げて行きながら社会貢献活動を行っていきたいです。

後藤由歩さん
 私達の学校は、増上寺の近くにあります。増上寺の「大蔵経」が長い年月を経て、大切に守られ、「世界の記憶」に認定されたことを知り、記録を保存し、伝承していくことは過去だけの人々の役割ではないと強く感じました。この認定は過去から受け継がれてきた知の積み重ねであるとともに、未来へと手渡していく、私たち一人ひとりへのメッセージではないか。私自身が知らなかったように、「世界の記憶」は価値のある制度でありながら、その存在や意義が、特に若い世代には届いていないのが現状です。

 今回、「世界の記憶」の認知度を確かめるために、学校内でアンケートを実施し、以下の回答を得ました。(1・2年生 計101名)
①ユネスコの「世界の記憶」という事業を知っていますか? 
 はい:2.8%、いいえ:97.2%
②増上寺の「大蔵経」を知っていますか?
 はい:2.8%、いいえ:97.2%
③この制度をより知りたいと思いますか? 
 思う・やや思う:85%
④候補を選べるとしたら、何が相応しいか?
 「ヒロシマの写真」「源氏物語」「浮世絵」「東日本大震災の写真」
➄広める際に現実的で、効果的な方法は?
 例)SNS、展示会、映画化、企業とのコラボ

 このアンケートを通して、多くの生徒から「世界の記憶」について知りたい、深めたい、共有したいという前向きな回答を得られました。関心がない訳ではなく、制度に係わるきっかけが少ないだけ。だからこそ、知ってもらうだけではなく、それぞれが自分事としてかかわれる仕組みを用意することが必要だと考えました。

深井颯さん(ふかい さやか)2年
 次に、「世界の記憶」をより身近にする体験の提案を行います。初めに、ワークショップについて。アンケートにより、きっかけ作りが高校生の関心をより集めていくために大切だと思いました。大蔵経は保存されているだけで価値をもつものではなく、そこに書かれた言葉や背景を知り、今を生きる私たちがどう受け取るかによって、意味を持つものと思います。

髙橋夏帆さん(たかはし かほ)1年
 ここからは、「世界の記憶」を多くの人に共有するための地域、及び、国との連携についての提案です。増上寺で開催される各種イベントに関する特別ブースを設置するという提案です。増上寺では、年間を通して多くの催し物が行われ、国内外から幅広い来場者が訪れています。そのような場に情報の拠点を設けて、これまで「世界の記憶」に触れることのなかった人に、自然な形で認知してもらうことが可能になると考えました。「世界の記憶」を特別な知識から身近な文化資源へと位置づける取組でもあります。

まとめ(高校生からの提案と期待)
1.ワークショップ
・「大蔵経」を題材とした体験型ワークショップ
 大蔵経の翻訳・読解体験:専門的な翻訳ではなく、現代の言葉に置き換えながら「この言葉は、今の社会にどうつながるか」を考える。
・4つそれぞれのテーマを主題とした体験型ワークショップ
①選ぶ:歴史的資料や記録を見比べ、「もし自分が世界の記憶に残すとしたらどれを選ぶか考える」
②時間:写真や文章を用いて今の自分たちの記録を残し「これを100年後に見た人はどう感じるか」
③失ったら困るもの:文化や価値観、考え方が記録されていない世界を想像しながら、「記録が当たり前でないこと」
④記録の見せ方:高校生の視点で「どうすれば初めて知る人に伝わるか」を考え、展示案や紹介文をつくる。

2.地域、国との連携
①増上寺で年間30件以上の行事が開催されるので、そこに特別ブースを設ける。
②公共施設(図書館や区民センター)を活用して展示や体験の場をつくる。
③国が世界の記憶選定の在り方を検討する。現在は文部科学省が候補を出し、 選定しているが、今後は、国民が候補を選出し、専門機関が選定してはどうか。

3.私たちからの期待:知る“きっかけづくり”が大切
①ワークショップ、世界の記憶選定方法
②高校生の私たちにもできること
・“知って終わり”にしないために、三田高校内での普及活動、シンポジウムの開催。
・記録の意味を広げていくために。
・「記録は後世が知るために保存するもの」で終わらない。
・残す、選ぶ、記録するなど行為として私たち自らがかかわることが大切。
・自分たち自身で考えることで意味が広がっていく。

4.(期待)さまざまな取り組みを行い、多くの人たちが「世界の記憶」に関心を持つ ようになったら、「世界の記憶」の登録制度の意義が今よりもっと大きくなる。

 お忙しい中、本シンポジウムにご協力くださいました日本ユネスコ国内委員会小林美保様、浄土宗総合研究所研究員柴田泰山様、都立三田高校ユネスコ委員会の生徒さんに、御礼を申し上げます。

(常任理事 国際学術文化委員会 佐藤律子)