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Minato Unesco Association

はやぶさの旅路と教訓

2022年度 第一回国際理解講演会
「はやぶさの旅路と教訓」

的川泰宣氏 宇宙航空研究開発機構 名誉教授

日時:2022年6月19日 14:00~16:00
会場:国際文化会館

冒頭、永野会長の開会の挨拶と講師の紹介がありました。的川講師は、日本の宇宙開発の父・糸川英夫博士の最後のお弟子さんであり、「はやぶさ」をテーマにした映画では、西田敏行が演じている方です。

「何故、小惑星の探査を思いついたのか」
 1985年にハレー彗星の探査のため、研究者たちが鹿児島県の内之浦に集まりました。ロケットの発射基地であった内之浦は、伊能忠敬も陸からの測量を断念したほど辺鄙な所で、何もないので皆でお酒を飲みながら話をしました。そこで、理学部系の連中が、太陽系には火星と木星の間に(当時で)40万個の小惑星があり、それを調べれば昔のものを残している可能性がある、と言います。しかし、彼らは持ってきたものを分析することには興味があるが、取ってくることには興味がない。逆に、我々工学部系は分析には興味がないが、ロケットを打ち上げ、サンプルを採取する装置を作ることは好きです。両者は盛り上がり、一晩で「小惑星からのサンプルリターン計画」の話が持ち上がったのです。また、小惑星が地球にぶつかれば、人類は絶滅します。小惑星を研究するということの意味はここにもあったのです。

「さまざまな難題」

宇宙開発委員会に「はやぶさ計画」を提出しましたが、世界で初めてのことが八つもあり、気が違ったかと相手にされませんでした。しかし、バブルが破綻した暗い世の中に、「無謀な」プロジェクトを実現させることには意義がある、として認めてもらいました。

 課題は多く、三億キロメートルもの遠距離での操作は「よけろ」と指示しても時間差が40分もあり間に合いません。このことは「はやぶさ」自身が考えて行動する仕組みへと繋がります。次に「金がない」。必要な額の4分の1の予算しか貰えませんでした。その結果、大企業には頼めないので、中小の町工場を一軒一軒周り、安い所安い所を探しました。一例ですが、「はやぶさ」の着陸地点を誘導するターゲットマーカーの開発です。落としても重力の小さいイトカワで弾まず定着する必要がある。思いあぐねて飲み屋で議論をしていた時、横で飲んでいた人がそれを聞き、家からお手玉を持ってきました。お手玉の粒が中で衝突して余分なエネルギーがなくなるのです。その人は町工場の職人さんで、その人がターゲットマーカーを作りました。

  あと半年で帰還の時、四つのエンジン全てが止まりました。不屈のプロジェクトマネージャーも初めて弱音を吐きました。ところが、イオンエンジン四つのうち、±で一つは-が生きていて別の一つは+だけ生きていました。それを繋げれば良いのですが、設計上は繋げていない…実はこっそり繋げていたのです。ルール違反ですが、それで助かりました。

「はやぶさ1の成功」
 2010年6月13日オーストラリアにカプセルが着地し、回収しました。カプセルは耐熱ですが、本体はそうでないので、大気圏でバラバラになり消滅しました。それを見るのは悲しかったです。小さな1600粒のサンプルが回収できました。
 NHKの番組で「成功の原因を一つの言葉で言うと」と聞かれた時「適度な貧乏」と答えました。大企業に任せると楽だが金がかかる。お金がないので、工場まで行きチームは現場を見ている。故障時など、企業に相談しなくても乗り越えるアイデアがどんどん出てきました。 後で考えると、「未来への高い志」があれば貧乏でも乗り切れる、と言うべきでした。

「はやぶさ2」
 「はやぶさ2」の予算は、全面カットされました。しかし、政治家が「はやぶさ人気」を見て応援してくれたので予算が付きました。

2014年12月3日「はやぶさ2」は「リュウグウ」に向かいました。「はやぶさ1」の小惑星イトカワとは異なり、岩石だらけで(着地に自信のある)100mくらいの平地はなく着地点が見つかりませんでした。狭い場所に降りられるか不安でしたが、6mの場所への着地を10万回コンピューターシミュレーションで行いすべて成功したので、2019年2月22日第1回のタッチダウンを行い舞い上がった物を回収しました。

 1回で帰ろうという意見もありましたが、4月5日に爆弾で人工のクレーターを造りました。内部は表面より変化していないので本当の古い物があります。クレーターを調査中、「はやぶさ」は落下を止め、勝手に再上昇しましたが、その後、適地を見つけ7月11日に再度のタッチダウンを行い、サンプル採取をしました。

 2020年12月6日オーストラリアの狙った場所にカプセルは到着し、「はやぶさ本体」は別の星へと旅立ちました。

「リュウグウのサンプル」
 カプセルには5.4gのサンプルがありました。少ないようですが、分析者にとっては大変な量です。将来の分析技術の進化に期待し40%は保管。一部を世界の研究機関に送りました。1年が経ち成果が出始めています。昨夜、電話で聞いた事ですが、7%の水が含まれていることが判明したそうです。7%と言うと少ないように思えますが、地球には0.02%しかありません。

 岡山大学ではアミノ酸を検出しました。タンパク質はアミノ酸が数珠繋ぎになった物です。そして、タンパク質は生命に必須な物です。「リュウグウ」のサンプルから検出された23種類のアミノ酸の内、10種類がタンパク質を作るものだったそうです。これまでも隕石などから検出されていますが、地球に落下後に混じった物かどうか判明していませんので、宇宙でのアミノ酸は初めてとなります。

「未来の宇宙研究」
 中学生の頃、呉で、ソ連の「スプートニクの光」を見ました。宇宙時代の幕開けです。その後はソ連とアメリカの競争でしたけれども、ソ連崩壊後、15の国が協力して国際宇宙ステーションを設置しています。日本も年間400億円を支払っています。高いという意見と日本の国際的地位の維持を考えれば安いという意見があります。

 宇宙研究の第1期はアポロ計画がピークだったと思います。第2期はまだ途中です。人工衛星の成功率は日本が1番。世界一の気象衛星も持っています。いずれ宇宙へ行けるようになります。宇宙の歴史も分かってくると思います。宇宙には何でもあります。あらゆる現象が宇宙のもの。

(小惑星の衝突による人類の絶滅と言う問題もありますが)環境破壊や核兵器、ウクライナの問題を見ても、異文化や文明の間に対話がなければ第3次世界大戦になり人類は消滅してしまいます。この地球を大切にしていきたい。

(国際学術文化委員会 山田祐子)